2月にインタビューをお届けした、東大野球部在籍の鶴丸出身3選手。4月からそれぞれ4年生、3年生、2年生となり、新たなシーズンでの活躍が期待されます。
右から濵﨑貴介選手、武隈光希選手、櫻木隼之介選手
そんな彼らが戦う舞台となる、東京六大学野球連盟。これまで、長嶋茂雄(立大)、星野仙一(明大)、江川卓(法大)、高橋由伸(慶大)、青木宣親(早大)といった名選手を輩出してきた、学生野球の頂点に君臨するリーグです。東大からは一昨年、宮台康平選手がプロ入りして話題になったのも、記憶に新しいところです。
今回は、六大学の中でもちょっと“異質”な存在である東大野球部のことをお伝えしたいと思います。
東大球場の観客席
東大野球部は、大正8(1919)年に東京帝国大学野球部として発足しました。つまり、今年はまさに創部100年という節目の年なのです。そして大正14年に当時の東京五大学野球連盟に加盟し、それが東京六大学野球連盟の始まりとなりました。
そもそも東大といえば、言わずと知れた日本トップの超難関大学です。すなわち、野球云々の前に、まず一般入試を突破しなければならないわけで、甲子園を目指して練習に明け暮れてきた高校球児がそう簡単に受かる大学ではありません。
それは鶴丸とて例外ではなく、実際、東大に進学して且つ野球部に在籍した鶴丸OBは、これまで本当に数えるほど。たとえば、1981年春のリーグ戦で「赤門旋風」を巻き起こした時のメンバーだった小田口陽一さん(30回卒)、2007年秋に東大の連敗を48で止めた立役者である重信拓哉さん(55回卒)等おられますが、十数年に一人の在籍にとどまってきたのが実状です。
そんな中、2016年に濵﨑貴介選手が入部したのを皮切りに、翌年の武隈光希選手、そして昨年は櫻木隼之介選手と続いたことで、同時期に3名もの選手の在籍が実現するという、おそらく鶴丸史上初の事態を、今まさに迎えています。
3選手とも体格にも日々の研鑽がうかがわれる
一方、他の5大学は多くの場合、推薦もしくはそれに準ずる入試を実施しており、甲子園出場組や有名選手が名を連ねています。そのため、5大学と東大との間に埋め難い実力差が生じてしまうのは致し方なく、実際、2010年秋から2015年春まで、東大は5年近く勝てなかった時期があり、在籍中一度も勝利の美酒を味わうことなく卒業した選手もいるのです。
1勝するのが東大にとっていかに大変なことか、鶴丸が鹿実、樟南とリーグを組んでいるようなものだと考えれば、分かりやすいですよね。東大は何と過酷な使命を与えられているのかと思わずにはいられません。
また、リーグ戦で勝ち点を得るには、同じ相手に2勝する必要がありますが、それも東大にとって容易いことではありません。なので、2017年の秋季リーグ戦で法大に連勝して勝ち点を獲得した時は、実に15年振りの「快挙」として話題になったものです(ちなみに、悲願が実ったその試合で先発をつとめたのが、当時2年生だった我らが濵﨑選手でした)。
15年振りの勝ち点を得た試合終了の瞬間
しかし、強敵にも臆することなく挑み続けるのが、東大野球部です。さすがに毎試合というわけにはいかないものの、接戦を演じて熱いファン達に応える東大野球部は、他大からも一目置かれる存在と聞いています(六大学で一番練習しているとの噂も……!)
そして、甲子園には行けなかったけれど、そういうスター選手達が存在する東京六大学野球でしのぎを削りたい、神宮で、東大で野球をやりたい! という思いから、難関入試に挑む高校球児達もいるのです。
3選手に訊いてみたかったこと (40回卒・枦木)
昨年12月の東大球場でのインタビュー取材に広報班サポート役として同行したものの、スポーツニュースを眺める程度にしか野球を知らない自分は、まさに「Youは何しにここへ?」状態。せめてもの写真撮影係を頑張ったわけですが、実は東大がまだ一度もリーグ優勝したことがないこと、それどころか連敗も珍しくないくらいであること、なのに、野球をしたいがために東大を受験するという、素人にはどこか本末転倒にも思える選択をする球児もいるということを、取材前に初めて知り、俄然、興味は湧いてました。
なので、どうしても3人の若者に訊いてみたかったのです。
鹿児島で有数の進学校である鶴丸高校を卒業し、さらなる超難関である東京大学に進んだということは、ある意味、エリート街道を順調に進んでいるとも言えるのに、全力で挑んでも相次ぐ敗戦に、プライドが傷付けられることはないのか?
悔しさや挫折を味わっても、それでも野球を続けていくことに、何を感じているのか?
素朴で拙い質問に、3選手が答えてくれました。
濵﨑貴介 選手(3年生)
※ 学年は取材当時(以下同)
「僕は2年生の春がデビュー戦で、春の後半から先発をまかされるようになりました。でも、秋の終盤にけっこう打たれてしまい、そしたら3年生の春は先発ではなくリリーフで、あまり結果も出せなくて、この秋は登板すら一度もなくて。なので、すごく挫折を感じました。調子を崩した2年生の秋には、抑えられたはずなのに出来なかった自分のふがいなさに、劣等感も覚えました。でも今は、そんなふうに感じる必要はないんじゃないかと思ってます。明らかに自分達よりもレベルの高い相手と戦っているわけだから、劣等感を抱えてるヒマなんかない、もっとチャレンジャー精神でぶつかって、胸を借りて戦うくらいの気持ちでやっていければいいんじゃないかと、今はそう思って、野球をやってます」
武隈光希 選手(2年生)
「僕は、勉強については全くプライドはないんです。東大に入ったのも、野球をやるためです。東大野球部っていうのは注目度も高いですし、今はSNSもあるから、試合で打つとすぐツイートされて、ネットにも流れます。そうすると、ずっと僕を応援してくれてる高校時代の友達とか、指導者や親にも、すぐに情報が届くので、やっぱりやりがいがあります。だから、野球を頑張りたい。野球をするためにここに来たからには、相手がどんなレベルであろうと、負けるつもりはないです。確かに、元々の基礎体力の面で、他大学チームの選手達にかなわない部分もありますが、野球をしに来たんだから、しっかり向き合って頑張りたいです」
櫻木隼之介 選手(1年生)
「僕もどちらかというと、ここ(東大野球部)で野球をやりたいから、東大に来ました。勉強はちょっと、二の次になっちゃいますね…。この六大学野球で結果を残して、プロ野球にも負けないような存在になることが僕達のチームの目標なので、そこを目指してやっていきたいです」
迷いなく紡ぎ出された、さわやかで潔い三人三様の言葉に、久々に心が洗われるような気持ちになりました。歴史や伝統とは、こういうひたむきな思いが少しずつ積み重ねられていくものなのかもしれませんね。
御代替わりを迎える記念すべき年に、ともにそれぞれ125周年と100周年という節目を迎えた鶴丸高校と東大野球部。敗れても敗れても気概を失わないチームに鶴丸同窓生が3人も在籍し、日々奮闘していることは、私達にとっても大きな誇りに思えます。
今年の春季リーグは、4月13日(土)11時開始の東大×法大の開幕戦でスタートします。
神宮球場へ、我らが鶴丸出身の3選手を応援に行きませんか?
開幕直前にまた告知しますので、どうぞお楽しみに!
文:野田泰生 / 文・写真:枦木愛乃